のどが、渇く。
 どれだけ飲んでも足りない、渇きは癒されない。
 助けて。
 死んでしまう。

 この渇きを、誰か癒してください――。





********





 祖母から受け継いだ図書館にやってくる人は、極まれだ。
 だいたい図書館にやってくる人は、学校や企業に貸し出しもしているので学校の事務員か企業の事務員かのどちらかが大量に1年間借りていくだけで、それもその時期を過ぎれば人はほとんど来なくなってしまう。なのでいつもはかなり暇だ。
 それと企業に貸し出す場合は祖母も少しだけ料金を取っていたようだが、そんなにたいした金額ではなかったと覚えていたので、今までシシィはどうやって祖母が生計を立てていたのか謎で仕方なかったわけなのだが(さりげなく聞くとにこりと微笑まれてそのままだった)、その謎はやっと解けた。
 彼女は、魔術にて生計を立てていたのだ。
 そして、その依頼で年中暇ではなかったのだろう。
 それが分かったのは、たった今。

「……『闇色ハット』さん、ですか?」
「え?」

 目の前に、魔術師を頼って依頼人がやってきたからだ。

 シシィは魔術書から顔を上げて、カウンター越しにこちらを心配げに見ている少女と目を合わせた。髪は柔らかな栗色で胸まであるほど長く、瞳は海のように青い。
 服装は少女らしくフリルのたくさんきいたシャツに、スカート、それに小さなポシェットと言ってもよさそうなカバンとボトルを持っていた。
 しかし奇妙なのは、自分と同じくらいの年齢の彼女はどこか疲れたような顔をしていることと、のどの辺りが輝いていること。
 手に水を入れているのだろうボトルを持って、彼女はもう一度シシィに尋ねる。

「『闇色ハット』さん、ですか?」
「あ……はい、そうです、けど」

 シシィの返事に少女は――涙を流した。

「……けて………」
「あ、あの」
「助けてください……っ」

 ぐす、と少女の口から漏れた泣き声に、ルウスも何事かとシシィの隣で床に伏せて眠っていたというのに顔を上げて少女を見た後、シシィと顔をあわせた。
 これはどうしたことか、と視線で問いかけられ、シシィは分からない、と首を振る。
 その間も少女は涙を流し続け、

「もう、ここしか頼れる場所がないんです……っ」

 と、シシィに訴えた。
 真剣で、切羽詰まった表情にシシィは何も言えなくなる。
 彼女はシシィがここで「嫌だ」と言ってしまえば、ここから出て行った足でそのまま自殺しそうなほどまで追い込まれているような気がした。
 ――そう、それほどまでこの子は追い込まれている気がする。
 明らかに尋常ではない様子にシシィはとりあえず図書館の読書スペースに案内し、少女にイスを勧めた。その間ものどはぼんやりと輝いている。

「シシィさん、彼女に紅茶を淹れてあげてください」
「……え?」

 隣にいたルウスにボソリ、とささやかれ、シシィは小声で疑問の声を上げた。

「どうして、ですか……?」
「シシィさん、レイモルルさん特製ブレンドの紅茶をときどき飲んでいたでしょう?何か気持ち的に変化はありませんでしたか?」
「ええと……それは、あの紅茶は落ち着かないときや眠れないときに飲ませてくれていたから、そういう時にしか飲まなくて。確かに心は落ち着きますけど」

 シシィは怖がりでありながら、案外小さなときから1人でこの祖母の家によく泊まりに来ていた。しかし、そこはやはり怖がりな少女だったので、夜中に母親が恋しくて泣くこともしばしば。そういう時にだけ、祖母は自分特製ブレンドの紅茶を飲ませてくれていたのだ。不思議とその紅茶を飲むと気持ちが落ち着き、朝まで良く眠れた記憶がある。なので今でも確かに飲んだりはしているのだが――。

「……まさか、魔術ですか」
「魔術と言うよりは薬草でしょうか。私の鼻でも嗅ぎ取れましたから」
「なるほど……」
「その紅茶、今まさに彼女に必要でしょう?泣いている女性は見たくありません」

 確かに、とシシィは頷く。ルウスはセクハラまがいのことをするとはいえ、基本はフェミニストであるのだろう。

「あの、ちょっと待っててくださいね。紅茶を淹れてきますから」
「待って……!」

 彼女に一言断って、紅茶を淹れに居住スペースに戻ろうとすると服のすそを弱々しくひっぱられて止められてしまった。
 カタカタ、と震える手。
 よほど心細いのだろう。

「あの、大丈夫ですよ。本当に紅茶を淹れてくるだけですから……ほら、わんこもいますし、心細くないです。」

 そう言いながらシシィは、祖母がいたときの図書館の様子を思い出していた。
 祖母がいたとき、カウンターにはポッドが常備してあった。それを何も知らなかった頃のシシィは単純に祖母が飲むのだろう、と思っていたが今になってやっと気がつく。
 依頼人に飲ませるために、常備していたのだろう。
 魔法なんて、魔術なんて世間一般的に身近でないこの国で、存在のあまり知られない魔術師を頼ってくると言うことはよっぽどのことなのだ。肉体的にも精神的にも。
 もっと早く気がついておけば、この少女を怯えさせ、不安にさせることはなかった。
 しかし今は知らなかったことを嘆くのも惜しい。

「大丈夫です、お話は聞かせてもらいます、ね?」
「………………」

 それでようやく、少女は手を離してくれた。
 ――信用、してくれたのかな……?
 そう思うことにして、シシィはルウスに小声で「頼みます」と言うとその場を離れ、キッチンまで紅茶を淹れに走っていった。





********





「――のどが渇く、ですか」
「はい……」

 紅茶を飲んだことで泣きやんだ少女にシシィは彼女に事情を尋ねると、まだ少し混乱は見られたが「のどが渇く」と言いながら、ぼんやりと光り輝くのどをおさえた。
 光っている、と言っても皮膚の向こう側から明かりが見えるような光なのだが、彼女がのどを手でおさえてもその光は隠れることがなかった。
 シシィはそののどをじっ、と見つめながら詳しく事情を聞く。

「お、お水は飲んでますよね」
「飲んでます……飲んでるけど、渇くんです。どれだけ飲んでも渇きが治まらなくて1日に30リットル以上飲むけど、それでも全然のどの渇きが癒えなくて」

 隣で、ルウスが表情を厳しくしながら耳をピクリと動かす。彼もやはり彼女の渇き具合は異常だと思っているのだろう。

「あの、の、のどが渇き始めたのはいつ頃からですか?」
「ひと月前……なんだか、喉に痛みがはしった瞬間から……」

 少女は手の中にある水の入ったボトルを握り締めながら言う。

「お医者様にもたくさんかかったのに、どの方も『異常なし』って言うんです。最後には周りの人が『精神的なものじゃないか』って……そんなこと、ないのに」

 ぐす、と鼻をすすってから少女はカバンから黒い封筒をシシィに手渡した。

「『B』という人から、紹介状を預かってきました!どうか、助けてください!」

 渡された封筒の裏を見ると、確かに白い文字で“B”と書いてある。彼女は魔術師と一般人を繋ぐ役割もある、と言っていたような気がしたがこういうことだったのだろう。
 封筒の中を見ると真っ黒な便箋が入っていて、その便箋には「彼女をよろしく頼む」といったようなことが書かれてあった。

「お、お願いします……っわた、私っ、両親に遠くの精神科病院に入院させられそうなんです。違うって言っても聞いてくれなくて、でも、両親もどうしたらいいのか分からないって、いうの、分かってるんです。お願い、助けて……」

 胸が痛んだ。
 本当に不安で仕方なくて、ここしか、自分しか頼るところがないのだろう。
 そうでなければ誰が自分と同じくらいの年の少女に、助けてと頼むだろうか。

「……」

 しかし。
 正直これまでシシィは、Bに依頼人を取り付けてもらおうとは思っていなかった。
 魔術を勉強するのはあくまでもルウスを人間に戻すためであり、その他のことに魔術を使うなど考えられなかったからだ。魔術師というものになりたくてなったのではないし、そうであるのなら、むやみやたらに魔術師の仕事を受けていいような気もしない。
 それは依頼人にも他の、誇りを持って魔術師をしている人にもとても失礼だ。

「助けて……お願い…」

 なのでここに少女が来たときはかなり戸惑ったのだが、今は。
 ――どうにか、してあげたい。
 こんなにも弱り果てて、困っていて、泣いている人が目の前にいる。
 それをどうして放っておけるのだろう。

「お止めなさい」
「……!?」

 ぽそ、とシシィにしか聞こえない程度の声で話しかけてきたのはルウス。
 彼は厳しい表情のままシシィに忠告する。

「同情は美しいものですが、貴女に本当に彼女を救いたいという気持ちがなければ魔術は難しいものです。半端に希望を与えて放り出すことは優しさからかけ離れていますよ」
「……」

 ルウスの言うことは、厳しくも正しい。
 そう言われると自分は本当に彼女を救えるのか不安になってくる。何せまだ初心者用の魔術書しか読んでいない新人も新人に彼女を救うことが出来るだろうか。
 急に胸が押しつぶされそうな不安に襲われて、シシィは無意識に首からかけてあるアンティークキーに服の上から触れた。
 ――おばあちゃんから受け継いだ、この鍵。
 祖母なら、どうしただろう。きっと見捨てなかったはずだ、彼女は優しく強い人であったのだから。その祖母に恥じることをして後ろめたくないか。
 つ、ともうひとつルビーブラッドから貰ったペンダントにも触れる。
 ――大丈夫、揺れたのは自分を信じる心。
 彼女を助けたいという気持ちは揺らがなかった。

「私は、あなたを助けたいです」

 シシィは少女の目を見てまっすぐ言った。
 少女は涙を流しながらシシィを見つめる。

「私、頑張ります。だからどうか私を信じて待っていてください」

 必ず。

「あなたを、助けてみせます」

 そう言いきったシシィの横では、ルウスが満足げに微笑んでいた。





********





 シシィは隠し部屋にて床にうずくまっている。

「あああああんなこと言っちゃいましたよ……どうしようっああ、あんな大きなこと言える人間じゃないのにどうして言っちゃったんだろうっ」

 何とか対策が思い浮かんだら連絡をする、とだけ言って連絡先を置いてもらってひとまず彼女には家に帰ってもらった。隠し部屋に対策を練りに来た途端シシィは大変なことをしてしまったんじゃないか、とがしがしと髪の毛ををかき混ぜる彼女に、ルウスは笑いながら言う。

「アレでいいんですよ、『たぶん助けられます』と『絶対助けます』では後者の方が安心するでしょう?シシィさんは無意識にいい言葉をお使いになりましたよ」

 その言葉でシシィは髪をかき混ぜる手を止めて、背後にいるルウスをじ、と見つめて「なるほど」とつぶやいた。確かに自分の命運をゆだねる人が不安げだと自分もかなり不安になるものだが、自信があるように見えると安心する。
 ということは、ハッタリも大事な武器の一つらしい。

「それで彼女、外見的には何も分かりませんでしたが手がかりはありそうですか?」
「……え?」

 ルウスの言葉に、シシィは目を丸くさせながら首をかしげた。

「の、のどが光ってましたよね?」
「……のど?」

 ルウスは訝しむように耳をピクリと動かす。

「いいえ?そんなふうには見えませんでしたが」
「えっ、でも確かに光ってましたよ!なんて言うか、皮膚1枚通したようなぼんやりした光でしたけど見えました」
「そうなんですか?」
「は、はい。どう見ても分かる光だと思うんですけど」

 ルウスは少し考え込むように視線を床に向けて、しっぽをバタパタと振ってから再びシシィを銀色の瞳で見つめる。

「それは、重要だと思いますよ」
「え?」
「私は彼女を見てもそんな光は見えませんでしたからね。私に見えなくてシシィさんに見えるのはネックになると思いますが」

 のどの光。
 それが何を意味するのかは、分からない。
 分からない以上は――。

「調べてみます!」

 本棚に並べられた本は、2種類ある。現在のシシィにとって読める本と読めない本。
 読める本は簡単な初心者向けの魔術ばかりが載った本か、魔術を使った場合に見られる変化の本。つまりどういう症状にはどんな魔術がいいのかというのを教えて
くれる本だ。
 事情は全て聞いている、と言っていた“B”が紹介してきたと言うことは、おそらく彼女の『のどが渇く』という症状は自分でも治せるものなのだろう。シシィは手当たり次第に読める本をつかんでバララーっと本の内容を見ていく。

「シシィさん、もう少し丁寧に見た方が……」
「読んでるんですよ……私の特技は速読とグラム量りです……」

 シシィ自身の言うとおり、彼女の本を読むスピードはかなり速かった。およそ1分間の間に彼女は意外と字が詰め込まれてある魔術書を10ページ分はめくる。
 つまり1ページ読むのにかかっている時間は、約6秒。
 ルウスはなるほど、とシシィに気づかれないようひっそりと頷いた。
 彼女がレイモルルの後継者に選ばれた理由が、やっと鮮明になってきた。彼女の特技が本当ならそれは魔術師に向いている特技だ。
 速読は、魔術書を読むのに。
 グラム量りは、魔術薬を作るのに。

「これにはないです……次」

 シシィは自分の傍らに読み終えた本を置いて、別の本を手に取る。
 数分後、彼女はその本をまた自分の傍らに置いてさらに別の本を。
 その数分後も、同じことの繰り返し。

「…………ない」

 気がつくと、めぼしいものは全て読んでしまっていた。時間としては1時間ほどしか経っていないのだが、シシィの目の前にはとてつもない量の魔術書が積み上げられている。
 無言でルウスを見つめてみるが、彼もまた無言で答えを返す。
 どうすればいいかわからない、と。

「……諦めます?」
「嫌ですっ!こうなったら全部の本棚ひっくり返す勢いで探します!!」

 ルウスの意地悪な誘惑に、シシィはむっ、となって言い返した。
 それが許されるはずがないから、今頑張っているというのに彼は少し性格が悪い。
 がっさがっさと本棚から本をありったけ下ろしていると、不意にひとつ、目についた。
 『魔力の応用』という本。
 ――どうしてだろう、やけにひっかかる。

「……」
「シシィさ……うわ!」

 近寄ってきたルウスに構わず、シシィは持っていた6冊ほどの分厚い本をそのまま床に落として『魔力の応用』という本をゆっくり手に取った。
 古びた皮の表紙に、古めかしい字体のタイトル。
 少しほこりを被っていたので、ふっ、と息を吹きかけるとホコリが舞う。

「シシィさん?見つけましたか?」
「ちょっと……待ってください……」

 表紙を恐る恐る開くと目次がある。
 すー、と指で追っていくと、
『魔力を飲んだときの症状と、その対処』
 という言葉が目に入った。
 読める、ということはこの本は初心者向けの本なのだろう。

「ルウスさん……魔力って飲み込む場合があるんですか?」
「え?……まぁ、言われてみればあってもおかしくないでしょうが……」
「ええっ!?」

 ルウスのあっさりした答えに、シシィは驚きながら彼の瞳を見つめた。

「魔力は多かれ少なかれ、誰でも持っているものなんです。ただそれが覚醒するかどうかの話ですよ。そういえば魔力は何かの拍子に外に出てしまうことがあり得ると聞いたことが」
「何かの拍子って……」
「くしゃみとか、せきとか」
「ずいぶん日常的な……」

 がくり、と思わず肩の力が抜けてしまった。が、ルウスは「外に出ることはあっても飲み込むなんてなかなか聞きませんよ」と付け足す。

「そういうことがするのは、魔術師や魔法関係の人だけです。魔力を飲み込むとそれだけ魔力はあがりますからね……でもそれは、かなり難しい魔術で誰それと出来ることでもないはずなのですが」
「うーん……」

 なら、違うかもしれないが、とシシィは密かに思いながらそのページを開いて速読してみる。すると、ある1行で目が留まった。

“魔術を飲み込もうとして失敗した場合、様々な症状が現れる。
以下、それを記す。
『頭の一部だけの頭痛』
『痛む時間が規則的な腰痛』
『目がぐるぐると回りはじめる』
『味覚が変わる』
『カエルの鳴き声のような声しか出なくなる』
『涙が塩になる』

『異常にのどが渇く』”

「あっ!!」
「ありました?」
「こっこれっ!」

 シシィはルウスにも見えるように彼の真正面にしゃがみこんで、本を床に置いてそのページの1行を指さした。その文章を読んでルウスも目を丸くする。

「これなんじゃないですか!?」
「……そうですね……シシィさんだけに見えて私に見えないものといえば魔力でしょうし。これの可能性が高いでしょうが……」
「?」
「……彼女、何故そんなことになったんでしょうね?」

 そういえば、そうである。
 魔力というものは誰にでもある、というのが本当なら一般の人はそのことを知らずに一生を終えることになる。シシィもこんなことになっていなかったら事実知らなかっただろう。
 彼女はどこかで魔力の存在を知ったからこそ、何かの理由で魔力を飲み込もうとしたのだろうか。
 しかし、魔力のことを知っている様子でもなかった。
 ――ううーん、謎……。
 シシィは首をひねる。

「でも、魔力を飲み込むなんて方法知ってたら普通は対処法も知ってますよね」
「そうでしょうね。もしかすると……事故かもしれませんよ」
「事故」

 ルウスは本を覗き込みながらシシィに言う。

「『のどに痛みがはしった』と彼女が言っていたでしょう?出ようとした魔力が、何かの理由で出ることが出来ずのどでひっかかったとか」
「あぁー」

 それはありえるかもしれない、と納得したところでシシィは本に再び目を戻す。肝心な対処法を書いていなければ意味がない。

「シシィさん、対処法ありました?」
「……あ、りますけど……」

 魔術薬で治るらしいが、その原材料が訳分からなかった。

「ルッティーナ草、ディア鉱石、ウォルノル液……って……」
「呼んでみればいいじゃないですか」
「は」
「魔術師は必要な材料を呼んで準備する魔術があったかと」
「そ、そういえば……」

 先ほど速読した本の中にそのような魔術があったはず。確か茶色の表紙の本だった、とシシィが探し当てて中身を読んでみるとやはりそのような魔術がある。
 つまり、いよいよ。
 ――魔術を使うときが来てしまった。

「頑張って、シシィさん」
「あ、う……はい……」

 魔術書片手に、シシィは本に書かれてある呪文を恐る恐る唱えた。

『名を呼ばれしモノ主の下へ ルッティーナ、ディア、ウォルノル……ひゃあ!』

 呪文を言い始めた途端、部屋はガタガタと揺れ始めて床が光り、戸棚が勝手に開いて中にしまっていたはずのものが次々と出てきたので、シシィは思わず叫び声を上げてしまった。
 怯えている主に構わず、魔術は発動し続けて、シシィの近くの床に4つのアイテムが置かれた。
 ――4つ。

「……あれ?3つ、しか言ってないのに」

 ルッティーナ草、ディア鉱石、ウォルノル液。3つだ。
 なのに目の前には余計な草が1つ。
 部屋が静まったのを見て、ルウスが笑いを堪えきれずに軽くふきだしながら言う。

「くっ……そ、それはヒヤア草、だと、思いますよ……っ」
「ヒヤア草……」

 ――もしかして、悲鳴も呪文の中に入った!?

「わぁああんっ、カッコ悪すぎます!」
「い、いやっ、上出来ですよ……!初心者は2つまでしかなかなか呼び出せないそうですが、まさか余計なもの1つプラスとは」
「こっ声が笑ってます!」

 ルウスが頭に乗せている帽子が震えているのを見ながら、シシィは涙目でこれからの先が思いやられそうだ、と密かに悲しくなったのだった。